The ブログ

アイドルマスター・ラブライブ!他社会不適合者向けコンテンツを扱います

「教養への考え方」が変わります~出口治昭著『人生を面白くする本物の教養』書評~

出口治昭著『人生を面白くする本物の教養』(幻冬舎新書)を読了しました。

 

f:id:sasashi:20161006221324j:plain

大学時代から周囲および自分の教養不足に悩んできて、教養とは何だということを考え続けてきた私にとって1つの形を示してくれた書です。

著者である出口治昭氏は、教養の定義について

「教養とは、人生におけるワクワクすること、面白いことや、楽しいことを増やすためのツールです」(本書p20)

と一言で言いきります。私は、今まで教養というのは「身に付けなくてはならない」と焦りを持っていた側面がありました。しかし、教養について出口氏が「ワクワクすること、面白いことや、楽しいことを増やすためのツール」と指摘しており、教養について強迫観念にとらわれすぎていたと反省しました。

 お品書き

 

 本書についての解説

第1章で教養が人生を面白くするためのツールであると言い切ると共に、知識=教養というわけではないと筆者は主張します。では教養とはどういうことなのか? 筆者は、「自分の頭で考える」ことこそが教養であると主張します。

第2章では、「日本のリーダー層には教養が足りない」という章タイトルの通り他国のエリート層と比べて日本のエリート層の教養が劣っていると指摘します。日本のエリート層の予備軍といえる大学生の段階で既に欧米の大学生と教養に差を付けられているとし、その理由を敗戦後の日本がが採用した「焼け野原から早く復興して、先進国に経済で追いつけ追い越せ」というキャッチアップモデルを採用したことでむしろ考えない人材を日本社会が求めたため、大学で勉強することが求められなかったからだと主張します。結果的に日本は高度経済成長を成し遂げたものの、出口氏はそれについても冷戦構造や人口急増などの幸運で「ガラパゴスのなかでガラパゴスの夢を見ていた」だけだとし、日本は普通の国に戻ったという現実を直視するべきとしています。そして、生き残りのためにも日本人は世界標準の教養を身に付けるべきとします。「世界標準の」という観点は思う所もありますが、教養が無い理由を歴史背景から解析している部分がは出口氏が「教養」について著書を出版するだけのことはある記述でした。

第3章では、「自分の頭で考える」ための思考法について2つ取り上げています。1つは「タテ」と「ヨコ」で考えること、もう1つは「数字・ファクト・ロジック」で考えることとしています。考え方の詳細は本書に譲りますが、考え方自体は難しくなく考える題材の前提となる知識さえあれば中学生でも身に付けられるものです。

また著者は異なりますが、私は「自分の頭で考える」ための思考法に特化したビジネスおよび自己啓発書として社会派ブロガーであるちきりん氏の「自分のアタマで考えよう」を推薦しておきます。

自分のアタマで考えよう

自分のアタマで考えよう

 

 

 第4章から第6章では、著者が教養を培ったものとしては「本・人・旅」と語り1章づつかけて著者自身の体験を基に教養が培われたとする過程を語ります。体験が主なので、主観的な要素も大きいですが1つ興味深い記述がありました。

第4章において「新しい分野を勉強するときは分厚い本から入る」というもので、いきなり薄い本を読む弊害を

「初めに薄い本を読んでしまうと、何となく概略がつかめた気になって、分厚い本を読まなくなる恐れがあります。」(p107)

 のように語ります。大学生時代に他の学科のシラバスを見ると、低学年履修科目である有機化学や細胞生物学の教科書がやたら分厚いものが指定されていたのを思い出します。そのような学科でも、高学年の科目の教科書は薄いor指定されずプリント配布がほとんどでした。この著書を読んだあとですと、教科書の厚さが学年を経るごとに薄くなるのも大学の学問の身に付け方においても出口氏の方法論が意識せずともあるのだなと思いました。

第7章と8章は教養という観点から時事問題を語る章です。この2つの章は政治的主張が絡んでくるので、読者によっては出口氏の記述が受け入れられない人も出てきます。正直、7・8章に関しては私もその主張はおかしいだろと感情的に思う点は多々あります。とはいえ、出口氏が例と挙げている問題提起は今の社会において重要なものばかりでどうでもいい問題は1つもありません。本書で取り上げる出口氏の問題提起と主張をたたき台に3章で取りあげられた思考を駆使して、個人が考えるべきであると考えます。本書で提起された問題についても時事的に話題になるなどきっかけが有れば、本ブログで取り上げたいと思います。

第9章では、日本人が英語を身に付ける重要性についての章です。この章は個人的な主張を抜きにしても、目新しさは薄い印象です。

第10章は「自分の頭で考える生き方」という章タイトルで、生き方論についての章です。この章で一番重要なキーワードは、『仕事とは「どうでもいいもの」である』という考え方です。このキーワードが何を意味しているかは、本書を読んでみると分かると思います。

 

総評

後半の章(7~9章)においては、政治的主張などによって「おっしゃる通り」「こいつ何言っているんだ」という内容もあります。私も正直な所著者のグローバリズムに対する考え方で受け入れがたいところもあります。ですが、本書の主題は「教養とは、人生におけるワクワクすること、面白いことや、楽しいことを増やすためのツールです」という言葉の掘り下げであり「教養への考え方」が変わる一冊であるのには間違いないです。

特に新大学1年生に、大学入学前の春休みに是非読んでおきたい一冊です。新書なので価格も手ごろな上引っ越しの移動の中でも読めるお手頃サイズなのでおススメします。もちろん、中学・高校生が今やっている勉強が受験以外にどう役に立つのか?と思ったときや社会人で今からどうやって「教養」を身に付けようかと悩んでいる場合でもおススメです。

 

(2514字)