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SNSによる学校内ギロチン~『石黒くんに春は来ない』感想~

武田綾乃先生(以下、敬称略)の最新作である「石黒くんに春は来ない」を読破したので、感想を書いていきたいと思います。武田綾乃といえば、2015,2016年に放映されたアニメ『響け!ユーフォニアム』シリーズで有名ですが、本作は『響け!ユーフォニアム』とは全く毛色の違う作品となっております。

石黒くんに春は来ない

石黒くんに春は来ない

 

 全編ネタバレ有りの記事ですので要注意!

 お品書き

  登場人物総評

『石黒くんに春は来ない』の作風と武田作品での立ち位置

武田綾乃作品は、今まで『今日、きみと息をする。』,『響け!ユーフォニアム』,『立華高校マーチングバンドへようこそ』そして本作『石黒くんに春は来ない』の4つがあります。

武田作品で以前感想を書いたのがこちら

『立華高校マーチングバンドへようこそ』⇒ 「立華高校マーチングバンドへようこそ」感想~佐々木梓とトロンボーンと瀬崎未来の物語~ 

『今日、きみと息をする。』⇒武田綾乃作『今日、きみと息をする。』感想~平坦な日常と三角関係~ 

武田作品の作品を一言で言い表してみると次のようになります。

『今日、きみと息をする。』:美術部の3人の三角関係を3人それぞれの視点から描く、日常物系

響け!ユーフォニアム』(原作):弱小部から強豪へと変貌していく中で主人公黄前久美子を取り巻く空気と『特別』の物語

『立華高校マーチングバンドへようこそ』:スポ根系部活物という皮を被った、主人公佐々木梓の父性を取り戻す物語

 

翻って本作の作風を一言で言い表すとすればどう表せるのか。

個人的に本作の作風は、

高校という「鎖国状態」に存在する、『スクールカースト』という階級社会を「石黒くん」という大義名分でSNSという手段で革命を起こして打倒する物語

 と言い表せます。『スクールカースト』を題材にした作品は創作物で一般的なものですが、他のスクールカーストものと異なる特徴としては、LINE(ライン)というSNSを用いて『スクールカースト』という権力を集団で打倒してしまうことと言えます。SNSを用いて社会を変えるという現象としては、「アラブの春」が有名です。

 

作風から本作の武田作品における立ち位置は、「高校生活の楽しくない陰湿な側面」が前面に出るとどうなるのかという物であると推測できます。

今までの武田作品では、原作版ユーフォで

 思えば、『響け!ユーフォニアム』という作品は、この「周りの空気に流されること」と「それに反発すること」を描いていた作品だったと思うのです。
 原作でも重要なシーンですし、アニメでも8話で描かれた「あがた祭り」で久美子と麗奈が山に登るシーン……麗奈は「みんながお祭りに行っているのに、私達だけ山に登っている」という“特別”になろうとしていました。「周りの空気に流される人間」ばかりの中、自分達だけはそうではないとあろうとしました。

『響け!ユーフォニアム』アニメが描いていたものを原作小説から読み解く やまなしなひび-Diary SIDE-

 のように周囲の空気という同町圧力的な側面を感じることは有ったものの、露骨ないじめなどの陰湿な側面は殆どなかったです。強いて言えば、麗奈のコルネットソロ問題は部の分裂が陰湿な側面と言えなくもないですが、流石に麗奈をSNSで攻撃してソロから引きずり下ろすとかは無かったですね。

 

 

LINE(ライン)による学内ギロチンの後に残されたのは共産主義的な社会

しかし、アラブの春と本作ではSNSの役割が決定的に異なります。アラブの春では、あくまで「人集め」の手段でしかなく、権力打倒はデモというアナログな手段で行いました。しかし、本作では人集めだけでなく終盤での「スクールカースト」という権力者へのの攻撃手段までもLINEによって行われましたのが特徴であります。

 

このような、SNSにより権力者を倒して民主化という流れを真っ向から批判しているのが漫画家小林よしのり氏で、自身の作品『民主主義の病』にて

あるいは世界中の民主主義者は、SNSで立ち上がった若者が中東を民主化させると喧伝して、中東全体を無秩序のカオスに落とし込んでしまった。このような民主主義への妄想は「難病」としかいいようがない。 小林よしのり『民主主義の病』p326

と「アラブの春」を全否定しております。 

 

最終的に、学校という閉鎖空間とはいえ「スクールカースト」という階級社会をLINEにより打倒されるのですが、読んでいて清々しさというより、大衆(2年生の生徒の大半が)が「スクールカースト」のトップ(久住京香)をギロチンにかけたようで「民主主義の暴走」を感じざるを得ませんでした。

 

最終盤で、革命後の学校の様子を

この穏やかな空間こそが、皆が取り戻したいと考えていた学校の姿だった。誰からの抑圧も受けない、皆が平等に扱われる、理想郷。邪魔物はすべて排除し、正しい人間だけがこの空間に残される。 p304

 ...私には、共産主義にしか見えませんでしたね。

 

 

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